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レポート

2006年の世界政治・経済

国際情報部
2005年12月27日掲載

III. 各地域政治・経済の現状と課題
5.東南アジア
外部環境の悪化で成長減速

2005年の東南アジア経済は、原油高とIT関連製品の在庫調整の影響を受けて、成長率が減速した。05年の実質GDP成長率は、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイで、04年に比べて低下し、概ね4%台となる見通しである。輸出は、IT関連製品を主力とするシンガポール、マレーシア、フィリピンで、05年上期を通じ鈍化傾向が続いた。一方、原油高はタイ、フィリピンなど原油輸入依存度が高い国に大きな打撃を与えた。特にタイは、通貨危機後、黒字基調を維持していた貿易収支・経常収支がともに赤字に転落した。また、各国とも石油補助金により国内石油価格を低く抑えていたため、価格メカニズムによる需要抑制効果が働かず、財政負担が増大した。このため、各国は相次ぎ補助金政策の見直しに踏み切った。産油国であるインドネシアも、原油生産が減少する一方で国内需要が拡大し石油製品の輸入が急増、補助金増大による財政悪化懸念が通貨ルピアの急落を招いたことから、補助金の大幅削減を実施した(下図)。この結果、各国では、国内石油価格上昇によるインフレ圧力の高まりと、インフレ抑制のための利上げにより、個人消費を中心に内需が鈍化した。

東南アジア5カ国通貨の対ドル相場の推移

なお、7月21日に中国人民元の為替制度が変更されたが、切り上げ幅が小幅だったこと、また当局が早急な追加切り上げを否定したことから、東南アジア通貨への影響は軽微にとどまった。同じ日に、マレーシアは98年9月以来続いたリンギの対米ドル固定相場制を廃止し管理フロート制へ移行、迅速な対応により投機資金の流入を防いだ。

2006年は外需主導で緩やかに回復

06年の東南アジア経済は、輸出環境の好転により緩やかに回復に向かい、5%前後の成長率となる見通し。05年後半以降、IT関連製品の在庫調整が一段落し需要の鈍化に歯止めがかかったことから、各国とも輸出が持ち直している。一方、原油価格の高騰が一段落しつつあることから、各国の景気回復のスピードはインフレが落ち着き、消費・投資マインドが改善するペースに応じたものとなろう。景気の下振れリスクとして、鳥インフルエンザの感染拡大が懸念される。また、今後の人民元改革の動きも注視する必要がある。

直接投資導入で格差広がる

東南アジア経済の高成長を牽引してきた対内直接投資において域内格差が広がっている。90年代に多国籍企業が構築した東アジアの生産ネットワークにどの程度組み込まれているかが、そうした格差をもたらしている。対内直接投資が通貨危機前と同等以上に回復したのはタイとシンガポールのみである(下図)。ピックアップトラックの輸出基地であるタイは05年の自動車生産台数が域内で初めて100万台を突破する見通しで、裾野の広い自動車産業が活況を呈していることが外資の呼び水となっている。シンガポールは多国籍企業の地域統括拠点として確立した。中国の投資環境悪化に対する懸念の高まりを背景に、ベトナムが「チャイナプラスワン」の投資先として注目を集めている。

東南アジア6カ国の対内直接投資(認可ベース)
鳥インフルエンザとアジア経済への影響

アジアからヨーロッパに感染が広がる「高病原性鳥インフルエンザ」の世界的流行への危機感が高まっている。鳥インフルエンザはヒトにはほとんど感染しないと言われていたが、問題となっている「H5N1型」のヒトへの感染が1997年に香港で報告された後、2004年以降アジアで広がっている。世界保健機関によると03年12月から05年12月7日現在のH5N1型の発症者数は計135人、死亡者数は計69人に上る。現時点でヒトからヒトへの感染は確認されていないが、いつウイルスが突然変異しヒトからヒトに感染する新型インフルエンザが出現するかは予測不能で、かつ人々が新型ウイルスに対する免疫を持たないため大流行する可能性が高いと考えられている。

アジア開発銀行は、新型インフルエンザの流行が発生した場合のアジア経済への影響につき、感染率20%、約300万人が死亡するという控えめな前提(1918年に流行したスペイン風邪では世界で約4,000万人が死亡)の下、流行による心理的な影響が1年以上続いた場合、労働力減少による供給サイドへの影響は軽微にとどまるが(GDP成長率0.3%ポイント低下)、消費や投資など需要は2,827億ドル減少しGDP成長率を6.5%ポイント押し下げると試算している。